これまでの演奏会の紹介です。
イギリス音楽の夕べ
◆日時
1997年 4月11日(金)7:00pm
◆場所
奈良カトリック教会 奈良市登大路町36ー1 Tel.(0742)26-2094
◆演奏者
ヴィオラ・ダ・ガンバ 坂本 利文
チェンバロ 大岩 みどり
オルガン 高田 富美
日本音楽家ユニオン助成公演
◆プログラム
W.バード
William Byrd (1543-1623)
Fantasia in G
ファンタジア ト調
The Fifte Pavian & Galliard (from "My Ladye Nevells Booke of Virginal Music")
パバーヌとガッリアルド(『ネヴェル夫人のヴァージナル曲集』より)
Anonymous
作者不詳
Italian Ground
イタリア風グラウンド
Divisions on "Greensleeves"
”グリーンスリーブス”によるディヴィジョン
Faronells divisions on a Ground (La Follia)
ファロネルのディヴィジョン(ラ・フォリア)
Martin Peerson (1572?-1650)
M.ピアソン
The fall of the leafe
落葉
The Primerose
さくらそうの花
Peter Phillips (1561-1628)
P.フィリップス
Amarilli di Julio Romano
アマリリうるわし
John Stanley (1713-1786)
J.スタンリー
Voluntary A-major
ヴォランタリー イ長調
George Friederich Handel (1685-1759)
G.F.ヘンデル
Funfte Suite in E-dur
第5組曲 ホ長調
Konzerte in B Op.4,Nr6
コンチェルト 変ロ長調 Op.4,Nr6
Karl Friedrich Abel (1723-1787)
K.F.アーベル
Sonata e-moll
ソナタ ホ短調 ト長調より
◆プロフィール
坂本 利文/ヴィオラ・ダ・ガンバ
東京尚美音楽院ギター科卒。1974年ダンスリールネサンス合奏団に入団。以後6回に渡
るフランス演奏旅行に参加、フランス全土で演奏会を行う。同時にオーストリア、スウ
ェーデン、フランスでの古楽講習会に参加、中性、ルネッサンス、バロック音楽の演奏
法を学ぶ。1981年-1983年ベルギーのブリュッセル王立音楽院に留学。ガンバをW.ク
イケン氏に師事。室内楽をD.フェールスト氏に学ぶ。1986年ー1989年スウェーデンの
公立古楽合奏団“ユースタッツ・ビーバレ”に所属しスウェーデン、デンマーク、ポー
ランド等で演奏活動を行う。1990年オルティエス・ガンバコンソートを結成、7回の定
期演奏会を含む活動を始める。1993年SAKAMOTOファミリーコンソート(ガンバ、リュー
ト、リコーダー)での活動を開始。96年夏にはスウェーデンでもコンサートを行った。
現在、大阪音楽大学非常勤講師。相愛大学音楽学部古楽科非常勤講師。オルティスコン
ソート主宰。ダンスリールネサンス合奏団メンバー。
大岩みどり/チェンバロ
大阪音楽大学楽理科卒。在学中よりオルガン、チェンバロなどの古楽器演奏に関心を持
ち、同専攻科修了後ベルギー、アントワープ王立音楽院オルガン科に留学。プリミエ・
プリ(一等賞)を得て卒業。ソロ、室内楽、合唱の伴奏など幅広い演奏活動を行ってい
る。オルガンをS.デリーマーケル、林佑子、チェンバロを渡辺順生、室内楽を宇田川貞
夫の各氏に師事。武庫川女子大学音楽学部非常勤講師。
高田 富美/オルガン
相愛女子大学音楽学部オルガン専攻卒業。その後、ドイツ・ヴェストファーレン州立教
会音楽学校に留学。現在、オルガンとその他の楽器による演奏会を「音楽の散歩道」シ
リーズで企画している他、独奏、室内楽・合唱などとの共演等、演奏活動を行っている
。
◆楽曲解説
[イギリスのヴァージナリストたち]
16世紀後半から17世紀前半、イギリスでは独特の鍵盤作品の様式が開花し、その
作曲家たちは「ヴァージナリスト」(「ヴァージナル奏者」)と呼ばれる。代表的存在
としてはW.バード(1543-1623)、T.モーレイ(1557-1602)、P.フィリップ(1561-1628)、
J.ブル(1557-1628)、O.ギボンズ(1583-1625)、T.トムキンス(1572-1656)らが挙げられ、
歴史的にはエリザベス一世、ジェームズ一世の統治時代、いわゆる絶対王政の時代にあ
たる。文豪シェイクスピアが活躍したのもこの頃である。
ところで、「ヴァージナル」という語は、現在では主に長方形の楽器を指すが、17
世紀までのイギリスでは、すべてのタイプのチェンバロ(グランドピアノ型のチェンバ
ロ、長方形のヴァージナル、三角形のスピネットなど)の総称として用いられていた。
イギリスの「ヴァージナル作品」はドイツの「クラヴィーア作品」同様、「鍵盤楽器作
品」といった意味であり、おそらくヴァージナリストたちは、演奏する作品の性格やそ
の場の状況に応じて、チェンバロ、ヴァージナル、オルガン、さらにクラヴィコードな
どを自由に使い分けていたと思われる。
ヴァージナル作品のジャンルには舞曲(バード「パバーヌとガッリアルド」)、当時
流行した歌曲の編曲(フィリップス「アマリリ麗し」)、プレリュードやファンタジア
などの自由形式(バード「ファンタジア」)、教会の典礼用の作品などがある。
(大岩みどり)
イギリスの初期バロック時代には“ディヴィジョン”と言う演奏形態が大変好まれまし
た。“グラウンド”と呼ばれる定型のベースと和音の進行を元に、旋律を細かな音価に
分割(ディヴィジョン)し、変奏して行くもので、これは後に変奏曲と言う形式に発展
して行きます。
“イタリアのグラウンド”はタイトルが示している様に、イタリアで流行したグラウン
ドを元に作曲されています。
“グリーンスリーブスによるディヴィジョン”のメロディーは、ポピュラーなものとは
少し違いますが、グラウンドのパターンは同じものを用いています。因みにこのグラウ
ンドは“ロマネスカ”と呼ばれています。
“ファロネル氏のディヴィジョン”は、ルネッサンスからバロック期にヨーロッパ中で
大ヒットした“ラ・フォリア”のテーマを変奏したものです。
アーベルはヘンデルやクリスティアン・バッハと同じくドイツに生まれ、後にイギリ
スに渡って活動した音楽家です。特に、クリスティアン・バッハとはロンドンでバッハ
・アーベル協会を設立し、協力しあって演奏活動を行いました。本日はアムステルダム
で出版された通奏低音付きのソナタ・ホ短調と同じ頃作曲されたと思われる無伴奏のソ
ナタ・ト長調を織り交ぜて演奏致します。
(坂本利文)
[ヘンデルとアーベル]
18世紀のロンドンはヨーロッパ最大の音楽都市であった。グリークラブに代表され
るアマチュア音楽活動の隆盛、古楽アカデミー、マドリガル協会の創設に見られる過去
の音楽への関心など、今日の音楽状況によく似ている。
イギリスでは外来の音楽家は常に歓迎されてきたが、特にこの時期、3人のドイツ人
音楽家が大きな足跡を残した。ヘンデル、アーベル、そして大バッハの息子ヨハン・
クリスティアン・バッハである。ヘンデルはイタリア・オペラの様式とイギリスの合唱
の伝統を結合し、英語の歌詞による大規模なオラトリオを創り、今日まで続くオラトリ
オ演奏の伝統−アマチュアの演奏会への参加−を樹立した。また、アーベルは、ヨハン
・クリスティアン・バッハとともに1765年から81年にかけてロンドンで定期的な
公開演奏会を組織し、彼ら自身が演奏し、また内外の演奏会を招聘した。
本日のプログラムにヘンデルとアーベルを加えたのは、彼らがこのようにイギリスで
活躍し、ロンドンに文字通り「骨を埋めた」からだけではなく、その作風にもよる。
ヘンデルは、本日演奏する作品を見ても、組曲のアルマンドはラモーを思わせる洗練さ
れたフランス趣味、「調子の良い鍛冶屋」として知られるエールはドイツのコラール変
奏の手法、一方「オルガン協奏曲」は典型的なイタリア・コンチェルタント様式と、各
国の「いいとこ取り」をしている。このコスモポリタンの姿勢はある意味でイギリス的
といえる。またアーベルの、穏やかで耳ざわりのいい作風は、僚友ヨハン・クリスティ
アン・バッハの作品と同じく、イギリスの貴族・富裕市民層の生活感覚に適っていたと
思われる。
(大岩みどり)