これまでの演奏会の紹介です。
オルガンとチェロ、午後の調べ
◆日時
1997年 5月18日(日) 2:30pm
◆場所
宝塚市立ベガホール
◆演奏者
チェロ 大木 愛一
オルガン 高田 富美
◆プログラム
Johann Sebastian Bach (1685-1750)
J.S.バッハ
Praludium und Fuge Es-Dur BWV552
前奏曲とフーガ 変ホ長調 BWV552
Violoncello solo Nr.4 Es-Dur BWV1010
無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV1010
Passacaglia c-moll BWV582
パッサカリア ハ短調 BWV582
Felix Mendelssohn Bartholdy (1809-1847)
F.メンデルスゾーン
Sonate V A-Dur Op.65
ソナタ 第3番 イ長調 作品65
Theodor F. Kirchner
T.キルヒナー
2 Tonstucke Op.92
2つの小品 作品92
Franz Liszt (1811-1886)
F.リスト
Praludium und Fuge uber das Thema B-A-C-H
「BACH」の名による前奏曲とフーガ
◆プロフィール
大木愛一/チェロ
東京芸術大学音楽学部器楽科チェロ専攻卒業。阿保健、松下修也、堀江泰氏、各氏に師
事。芸大在学中、通奏低音・アンサンブル等に小林道夫氏の薫陶を受ける。1988〜
89年ハンガリー政府の奨学金に基づき、文部省在外研究員としてブダペストに学び、
ペレーニ・ミクローシュ氏の音楽と指導に接する。現在、大阪教育大学助教授。
高田 富美/オルガン
相愛女子大学音楽学部オルガン専攻卒業。その後、ドイツ・ヴェストファーレン州立教
会音楽学校に留学。現在、オルガンとその他の楽器による演奏会を「音楽の散歩道」シ
リーズで企画している他、独奏、室内楽・合唱などとの共演等、演奏活動を行っている
。
◆プログラムについて
ー「大河」バッハに沿ってー
BACHはドイツ語の「小川」という意味で、バッハは「小川さん」ということになりま
すが、彼が小川ではなく音楽の歴史の中で最大の大河であることは、誰しも認めるとこ
ろでしょう。今日演奏される「前奏曲とフーガ 変ホ長調」「パッサカリア」の2曲は
、そのバッハの作品の中でも、とりわけよく演奏される名曲です。「前奏曲とフーガ」
は自由で和声的な前奏曲と、フーガが対になった形式、「パッサカリア」は低音(ペダ
ル)の旋律の繰り返しの上に次々と楽想が展開されてゆく、一種の変奏曲で、ともにル
ネサンス時代に起源を持ち、それに続くバロック時代に成長した様式です。また、無伴
奏チェロ組曲は密度の高い対位法と精巧な和声的構造を持ちうるという点で、バッハの
創造力を遺憾なく示す作品ですが、これも組曲という、中世・ルネサンスの舞曲から発
展した形式をとっています。このように、それ以前のさまざまな流れが、バッハという
大河に流れ込み、洗練され、完成されました。
しかし彼の死後、合理主義的・世俗的な風潮から、彼の綿密な手法は「知的喜びを与
えるにすぎない」と退けられるようになりました。
バッハの真価を再び世に知らしめたのが、メンデルスゾーンでした。裕福で教養ある
ユダヤ人家庭に育ち、文豪ゲーテとも親交のあった彼は、早くから「古典的なもの」へ
の関心を持ち、1829年、僅か20歳で一世紀余りも忘れられていたバッハの「マタイ受
難曲」を再演し、バッハの音楽が蘇るための先鞭をつけました。彼の6曲のオルガンソ
ナタは、彼のバッハへの讃歌といえるでしょう。もっとも、今日演奏される第3番は、
均整のとれた穏やかな美しさを持ち、むしろモーツアルトへの心酔を感じさせるのです
が。キルヒナーの2曲の小品もまた、優美な愛すべき作品であり、ドイツロマン派の
「疾風怒濤」とは別の面を見せてくれます。
ともあれ、メンデルスゾーン以降、多くのドイツの作曲家が、バッハを規範・理想と
してオルガン作品を創作するようになりました。シューマンの「B−A−C−Hによる
6つのフーガ」、ブラームスの11曲の「コラール前奏曲」など優れた作品が誕生しま
したが、今日演奏されるリストの「BACHによる前奏曲とフーガ」はそれらの中で
も、記念碑的な名作といえます。バッハの対位法的な手法、19世紀ドイツロマン派の
精神、そしてリストがピアノ音楽の領域で発展させた華麗な演奏技巧がここで見事に統
合されています。バッハの死以後地下に潜っていた流れが、ここでやっと完全に復活し
たと言ってよく、そしてレーガーに受け継がれてゆくことになります。
(大岩 みどり)